『ITエンジニアとしての一般的な目標設定の考え方』と『ネットワークエンジニアに特化した具体的な目標設定の例』について説明します。
目標を設定するタイミング
ITエンジニアとして『目標』を設定するタイミングとしては、2つあります。
会社の人事評価
所属している会社内での評価のために、目標を設定して、定期的に振り返りを行います。
この場合は、会社から良い評価を得て、昇給や昇進することを目的としています。
個人のキャリアパス検討
個人として、キャリアパスを検討する際に目標を設定します。
この場合は、「ITエンジニアとしてのゴール」を明確にすることを目的としています。
ネットワークエンジニアのキャリアパスについての詳細は、下記を参照してください。
なぜ目標を立てる必要があるのか?
目標設定の意義
定期的に目標を設定し、上司と面談を行っているITエンジニアの中には、「何のために目標を設定するのか?」と疑問に感じている人もいると思います。
ITエンジニアが目標を設定する意義は下記です。
- 今の自分の立ち位置を知り、将来なりたい姿を明確にする
→AsIs-ToBe による分析と対策が可能となる - 目標設定と振り返りを繰り返すことにより、ITエンジニアとして成長する
→PDCAによる継続的な改善や軌道修正が可能となる
結果として、昇給や昇進することにより、モチベーションの維持・向上につながります。
目標を明確にしないとどうなるか?
目標設定は、「成長を目指すこと」が前提のため、「現状維持」を望むITエンジニアにとっては、面倒に感じてしまうと思います。
しかし、ITエンジニアは、技術の変化が早い職種のため、常に成長することが求められ、「現状維持」を目指してしまうと、時代の流れに淘汰されてしまう可能性があります。
そのため、目標設定はITエンジニアにとって重要なステップです。
必要な要素と設定のコツ
目標設定に必要な要素
スキルの種類
スキルには、下記の種類があります。ITエンジニアとしての経験年数や役割によって、必要なスキルは変化していきます。
種類 | 説明 |
---|---|
テクニカルスキル | ネットワークエンジニアの場合は、以下のような知識・技術 ・TCP/IPの知識 ・各種プロトコルの知識(ARP、DHCP、OSPF、BGP、SNMP、Syslog、etc…) ・ネットワーク機器の操作(ルーター、スイッチ、Firewall、SLB、etc…) ・ネットワーク設計スキル ・パブリッククラウドの知識(AWS、Azure、GCP) |
マネジメントスキル | プロジェクトの運営管理に必要な知識・技術 ・スケジュール管理 ・コスト管理 ・品質管理 ・リスク管理 ・課題管理 ・要員管理 |
ヒューマンスキル | 主に対人関係で必要な能力 ・コミュニケーション力 ・交渉力 ・プレゼンテーション力 ・ヒアリング力 ・コーチング力 ・ファシリテーション力 ・リーダーシップ |
対象範囲
対象範囲としては、自身の成長だけではなく、「チーム全体の成長」や「下位者の育成」も目標に含める必要があります。
役割や経験年数ごとの対象範囲の例を示します。
チームリーダーの場合
- チーム全体の成長:50%
- 自身の成長:20%
- 下位者の育成:30%
中堅メンバーの場合
- チーム全体の成長:20%
- 自身の成長:60%
- 下位者の育成:20%
若手メンバーの場合
- チーム全体の成長:10%
- 自身の成長:90%
- 下位者の育成:0%
目標設定のコツ
目標を設定する際のコツとして、下記があります。
- 目的を明確にする
-
「目標」というのは何かを達成するための手段です。最終的に何を達成したいのかという「目的」を明確にしましょう。※目標を達成することが目的にならないようにしましょう。
- 数値を盛り込む
-
目標に「数値」を盛り込むことで、定量的に計測できるようになります。定量的な目標は、達成できたかどうかを明確に 判断することができます。
- 行程を明確にする
-
目標を達成するための「具体的な行程」を明確にします。「目的」→「目標」→「具体的な行程(施策)」へと落とし込んでいくイメージです。
- 期限を設定する
-
設定した目標には、「実施期限」を定めます。最終的な期限だけではなく、「途中行程」や「進捗確認を行うタイミング」にも期限(期日)を設けて、 状況の確認と軌道修正ができるようにします。
- 効果を明確にする
-
目標を達成した時に、自身や組織に対してどのような良い効果があるのかを明確にします。
- 評価指標を事前に作る
-
振り返り時ではなく、目標を設定した段階で、どのように達成度を評価するかを決めます。「達成できたか?達成できなかったか?」だけではなく、結果に至るまでの行程に対しても評価指標を作ることで、より定量的な評価が可能です。
目標設定には、「SMARTの法則」という考え方があります。このあたりも参考に目標を設定しましょう。
ネットワークエンジニアの具体的な目標設定
ネットワークエンジニアの具体的な目標設定の例について、以下の担当工程や役割ごとに例を挙げて説明します。
全体としてのポイントとしては下記の通りです。
- 目標は、現在の状況も記載し、根拠を明確にする。
- 行程に関しては、可能な限り期限を明確にする。
- 目標達成時の効果には、副次的な効果も記載する。
- 途中行程で成果物を作成した際にも、達成度を割り振る。
運用・保守担当
運用業務の品質向上を例として説明します。
- 定常業務として、ネットワーク機器の設定変更を実施
- ユーザーからの申請を元に、手順書やコンフィグを作成
- 作成した作業資料を上位者レビュー → 指摘があった場合は差し戻し
- 作業資料を元にネットワーク機器の設定変更を実施
目標設定の例
- 目標
-
ネットワーク機器設定変更業務の品質向上
- 上位者レビューでの差し戻し率:5%以内
※過去実績 ○月〜○月の差し戻し率:20%
- 上位者レビューでの差し戻し率:5%以内
- 目標達成までの行程
-
- 過去の指摘事項を集計した一覧を作成する。(○月×日までに作成)
- 指摘事項一覧を元に、チェックリストを作成する。(○月×日までに作成)
- 作業資料を作成した後にチェックリストを使用して、不備が無いかをチェックする。
- 新しい指摘事項があった場合は、指摘事項一覧に追加し、チェックリストの修正有無を確認する。
- 目標達成時の効果
-
主効果
- 自身の作業品質が向上する
副効果
- 上位者のレビュー工数が削減できる
- チェックリストは新規要員が入った時の教育資料として利用することで、教育期間が減少する
- 目標達成の評価指標
-
- 指摘事項の作成完了 … 達成率20%
- チェックリストの作成完了 … 達成率40%
- 差し戻し率:10%以内達成 … 達成率80%
- 差し戻し率:5%以内達成 … 達成率100%
設計・構築担当
設計業務の効率化を例として説明します。
- 小規模ネットワークの設計業務を行うプロジェクト
- いくつかのチームに分かれて複数の案件を担当
- ユーザーへヒアリングを行い要件を確定
- ヒアリングした要件を元に設計を実施
- 構築は別チームが担当
目標設定の例
- 目標
-
小規模ネットワークの設計業務の効率化
- 新規設計業務の対応工数削減:▲20%
※現状の平均対応工数:20時間/1案件
- 新規設計業務の対応工数削減:▲20%
- 目標達成までの行程
-
- ユーザーへのヒアリング項目を精査する。(○月×日までに精査)
- ヒアリングシートを作成/修正する。(○月×日までに作成/修正)
- ヒアリングシートから設計資料を生成するツールを作成する。(○月×日までに作成)
- 実際の案件で試行する。
- 全案件に適用する。
- 目標達成時の効果
-
主効果
- 1案件あたりの設計工数が削減され、対応件数を増やすことができる
副効果
- ヒアリングシートの整備/資料生成のツール化により、安定した品質を保つことができる
- ユーザー満足度を向上することができる
- 目標達成の評価指標
-
- ヒアリング項目精査完了 … 達成率10%
- ヒアリングシート作成/修正完了 … 達成率20%
- 設計資料生成ツール作成完了 … 達成率50%
- 1案件あたりの対応工数:▲10%達成 … 達成率75%
- 1案件あたりの対応工数:▲20%達成 … 達成率100%
チームリーダー
チーム全体の円滑な業務遂行を例として説明します。
- プロジェク期間1年の大規模ネットワーク更改プロジェクト
- プロジェクト内の移行作業チームのリーダーを担当
- 移行作業は、合計15回の作業を予定
目標設定の例
- 目標
-
①高いレベルでの作業品質の維持
- 移行作業でのトラブル発生:0件
②プロジェクトスケジュールの遵守
- WBSの期限超過タスク:5%以内
※クリティカルパスの期限超過:0%
③予定人件費(工数)の遵守
- 各月の残業時間平均:15時間以内
- 目標達成までの行程
-
- 作業資料のフォーマットを作成する。(○月×日までに作成)
- 作業レビューの計画を策定する。(○月×日までに策定)
- WBSのチェックを日次で実施し、毎朝メンバーへ連携する。
- 稼働状況を週次で集計し、メンバーへフィードバックする。
- 目標達成時の効果
-
主効果
- プロジェクト全体が円滑に遂行される
副効果
- 安定した環境でレベルの高い業務が行えることにより、チームメンバーのモチベーション向上につながる
- 目標達成の評価指標
-
- 作業資料のフォーマット作成完了 … 達成率10%
- 作業レビュー計画の策定完了 … 達成率20%
- WBSチェック結果の連携実績:90%以上 … 達成率30%
- 稼働状況のフィードバック実績:90%以上 … 達成率40%
- 移行作業でのトラブル発生:0件達成 … 達成率60%
- WBSの期限超過タスク:5%以内達成 … 達成率80%
- 残業時間平均:15時間以内達成 … 達成率100%
まとめ
『目標設定の考え方』と『ネットワークエンジニアの目標設定例』について説明しました。
将来像を描いたうえで、目標を立てることは、ITエンジニアにとって大切なことです。
定期的に目標の振り返りと見直しを行い、軌道修正しながら理想の将来像に近づいていきましょう!